マーケティングに効く『フレーミング効果』の正体とは

あなたは、同じ商品やサービスなのに、提示の仕方一つで顧客の反応が大きく変わる、という経験はありませんか? 商品の説明文、価格の提示、キャンペーンの告知など、日常のあらゆるマーケティングシーンで、実は私たちの「ある心理」が巧妙に操られていることがあります。

その心理効果こそが、行動経済学で提唱されている「フレーミング効果」です。 フレーミング効果とは、情報の内容が同じであっても、その提示の仕方(フレーム)を変えるだけで、受け手の意思決定や印象が大きく変化する現象を指します。

本記事では、このマーケティングに絶大な効果を発揮する『フレーミング効果』の正体を、具体的な例を交えながら深掘りしていきます。 そして、明日からあなたのビジネスに活かせる実践的な活用術を、余すところなくご紹介します。 顧客の心に響くメッセージの作り方を知り、あなたのマーケティングを次のレベルへと引き上げましょう。

第1章:『フレーミング効果』とは何か?〜「伝え方」で変わる意思決定

フレーミング効果は、行動経済学者のダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって提唱された概念で、人間の不合理な意思決定を説明する上で非常に重要な要素です。 私たちは論理的に判断しているつもりでも、情報の「枠組み(フレーム)」によって、無意識のうちに判断が左右されているのです。

1-1. 有名な「アジア病問題」の実験から学ぶ

フレーミング効果の最も有名な例として、「アジア病問題」の実験があります。 これは、致死性の病気に対する2つの治療法を、異なる言葉で表現したものです。

グループAに提示された選択肢:

<blockquote>
    <p>「600人の命を救うために、以下のどちらかのプログラムを選択してください。」</p>
    <ul>
        <li><strong>プログラムA:</strong>200人が助かる。</li>
        <li><strong>プログラムB:</strong>1/3の確率で600人全員が助かり、2/3の確率で誰も助からない。</li>
    </ul>
    <cite>— Tversky, A., & Kahneman, D. (1981). The framing of decisions and the psychology of choice. Science, 211(4481), 453-458.</cite>
</blockquote>
<p>
この場合、多くの人がプログラムA(確実に200人助かる)を選択しました。

グループBに提示された選択肢:

<blockquote>
    <p>「600人の命を救うために、以下のどちらかのプログラムを選択してください。」</p>
    <ul>
        <li><strong>プログラムC:</strong>400人が死ぬ。</li>
        <li><strong>プログラムD:</strong>1/3の確率で誰も死なず、2/3の確率で600人全員が死ぬ。</li>
    </ul>
    <cite>— Tversky, A., & Kahneman, D. (1981). The framing of decisions and the psychology of choice. Science, 211(4481), 453-458.</cite>
</blockquote>
<p>
この場合、多くの人がプログラムD(誰も死なない可能性にかける)を選択しました。

プログラムAとC、プログラムBとDは、それぞれ内容的には全く同じです。(200人が助かる = 400人が死ぬ、1/3の確率で全員助かる/誰も死なない = 2/3の確率で誰も助からない/全員死ぬ) しかし、「助かる」というポジティブなフレームでは確実性を好み、「死ぬ」というネガティブなフレームではリスクを好むという、人間の心理が明らかになったのです。

1-2. フレーミング効果の基本的な種類

フレーミング効果にはいくつかのパターンがありますが、特にマーケティングで意識したいのは以下の2つです。

  • ゲイン・フレーム(利益のフレーム): ポジティブな側面や得られる利益を強調する表現。
    • 例:「このサプリメントを飲めば、毎日を活力に満ちた状態で過ごせます。」
  • ロス・フレーム(損失のフレーム): ネガティブな側面や失う可能性を強調する表現。
    • 例:「このサプリメントを飲まなければ、今のうちから健康を損なうリスクがあります。」

一般的に、人は「何かを得ること」よりも「何かを失うこと」を強く避けようとする傾向(プロスペクト理論における損失回避性)があるため、状況によってはロス・フレームの方が強力な動機付けとなることがあります。

第2章:マーケティングに効く!フレーミング効果の実践活用術

フレーミング効果は、商品紹介から価格設定、キャンペーン告知まで、様々なマーケティングシーンで応用できます。具体的な活用術を見ていきましょう。

2-1. 商品・サービスのベネフィットを「損失回避」で訴求する

顧客が商品を買うことで「何を得られるか」だけでなく、「買わないことで何を失うか」を提示することで、購買意欲を高めることができます。

  • 健康食品: 「この青汁で、不足しがちな野菜の栄養素を補給し、健康な毎日を送りましょう!」(ゲイン・フレーム)よりも、「この青汁を摂らないと、知らず知らずのうちに栄養バランスが崩れ、将来的な健康リスクを高めるかもしれません。」(ロス・フレーム)の方が、危機感を感じさせ、行動を促す可能性があります。
  • セキュリティソフト: 「このソフトで安心なネットライフを!」(ゲイン・フレーム)よりも、「このソフトを導入しなければ、あなたの個人情報が流出する危険性があります。」(ロス・フレーム)の方が、切迫感を感じさせやすいでしょう。

ただし、ロス・フレームは強いメッセージのため、過度に使うと顧客にネガティブな印象を与えたり、不安を煽りすぎたりする可能性もあります。ターゲット層や商品特性に合わせて使い分けが重要です。

2-2. 価格設定と割引表示にフレーミング効果を使う

価格提示は、顧客の購買判断に直結する重要な要素です。ここでもフレーミング効果が活躍します。

  • 「100円の利益」vs「200円の割引」: 例えば、1000円の商品を100円引きで900円にする場合、「100円OFF」と表示するだけでなく、「今だけ200円お得!(実質価格900円)」のように、顧客が感じる「お得感」を強調する表現も有効です。
  • 月額料金と年間料金の比較: サブスクリプションサービスで「月額2,000円」と提示するよりも、「年間プランなら月々1,666円!年間で4,000円もお得!」のように、年間で得られるメリットを強調することで、高額な年間契約を選びやすくなります。
  • 相対的なお得感を演出: 「通常価格10,000円が、今だけ7,000円!」のように、元値との比較で割引額を強調したり、「〇〇円の商品が〇%OFF!」と割引率で表現したり、顧客にとって最もお得に感じる表現を選択します。

「100円の差が購買意欲を変える!」の際にも触れましたが、価格は顧客心理の最前線です。どのように提示するかで、購買の決定打になることがあります。

2-3. ポジティブとネガティブのバランスで信頼感を高める

全てをポジティブに表現するだけが、常に最善のフレーミングとは限りません。 時には、正直なネガティブ情報を適切に含めることで、逆に信頼感を高める効果があります。

  • デメリットの開示: 商品のメリットばかりを強調するのではなく、あえて「この商品は〇〇な方には向いていません」「導入には〇〇の手間がかかります」といったデメリットを正直に伝える。これにより、「誠実な企業だ」という印象を与え、顧客の期待値を適切に設定できます。
  • 顧客の声の活用: 良いレビューだけでなく、改善点を指摘するレビューも一部掲載し、それに対する改善策を提示することで、透明性と向上心を示す。

例えば、ある学習塾の広告で、「この講座は毎日コツコツと学習できる方には最適ですが、短期間で劇的な成績アップを求める方には向いていません」と明記することで、ミスマッチを防ぎつつ、自社のターゲット層からの信頼を深めていました。

まとめ:『フレーミング効果』で顧客の「心」を動かす

『フレーミング効果』は、私たちが情報の「伝え方」によって、いかに意思決定を左右されているかを示す強力な心理法則です。 この効果を理解し、適切に活用することで、あなたは顧客の購買意欲を自然に引き出し、より効果的なマーケティングを実現することができます。

重要なのは、顧客を欺くことではなく、提供する商品やサービスの真の価値を、顧客が最も受け入れやすい形で提示することです。 ポジティブな側面を強調するゲイン・フレーム、損失回避の心理を刺激するロス・フレーム、そして正直なデメリットの開示による信頼構築。 これらの「フレーム」を戦略的に使い分けることで、顧客の心に響くメッセージを紡ぎ出し、あなたのビジネスを成功へと導きましょう。

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