『STP理論で作る現代的ポジショニング戦略:選ばれる場所を見つける地図』

はじめに:どこに「あなたの場所」を見つけるか?

「うちの商品、どこにでもあるものだから、どうアピールしていいか分からないな…」
「ライバル企業が強すぎて、うちが入り込む隙なんてないよ…」

もしあなたがそう感じているなら、それはあなたのビジネスが「自分たちの場所」をまだ見つけられていないのかもしれません。

広大な市場という海の中で、自分たちの船がどこに向かい、どこに停泊すれば一番輝けるのか。その「場所」を見つけるための強力な地図が、マーケティングの古典中の古典「STP理論」です。

1. ライバルだらけの市場で、どうやって目立つ?

今の世の中、どんな商品やサービスでも、必ずと言っていいほどたくさんのライバルがいますよね。ちょっとコンビニに行けば、同じようなお茶が何種類も並んでいるし、インターネットで何かを検索すれば、似たようなサービスがずらっと表示されます。

こんな中で、ただ「うちの商品はいいですよ!」と叫んだだけでは、残念ながら誰も振り向いてくれません。まるで、運動会でみんなが一斉に走り出しても、誰が一番速いのか、誰がどこにいるのかよく分からないのと同じです。

大切なのは、「誰に」「何を」「どうやって」伝えるか、ここをハッキリさせることなんです。

2. 「あれもこれも」は、結局「何もなし」

「いや、うちは老若男女、誰でも使えますよ!」
「どんなニーズにも応えられます!」

そう考えて、すべての人をターゲットにしようとすると、どうなるでしょうか? 例えば、子ども向けのおもちゃを大人向けにもアピールしようとしたり、健康志向の強い人にファストフードを勧めたりするようなものです。結果として、メッセージはぼやけてしまい、誰の心にも刺さらなくなります。

すべての人を喜ばせようとすると、結局誰の心も掴めない。これはマーケティングの鉄則です。

3. STP理論が「あなたの場所」を教えてくれる

そこで登場するのが、マーケティングの大家、フィリップ・コトラーが提唱した「STP理論」です。これは、あなたのビジネスが市場で勝ち残るための、とてもシンプルだけど強力なフレームワーク(考え方の枠組み)です。

STPとは、次の3つの言葉の頭文字を取ったものです。

  • S:Segmentation(セグメンテーション) → 市場を細かく分ける
  • T:Targeting(ターゲティング) → 狙うお客様を決める
  • P:Positioning(ポジショニング) → お客様の心の中で、あなたの場所を決める

この3つのステップを踏むことで、あなたは広大な市場の中で、自分たちが最も輝ける「場所」を見つけ、そこに資源を集中させることができます。まるで、大勢の観客がいる中で、あなたの声が一番よく届く「特等席」を見つけるようなものです。

この記事では、このSTP理論を「素人目線でも分かりやすく」解説していきます。具体的な例を交えながら、あなたのビジネスが市場で「選ばれる」ための「場所」を見つける地図を一緒に読み解いていきましょう。

第1章:STP理論って何?「市場の地図」を細かく見てみよう

まずは、STP理論のそれぞれのステップを、じっくりと見ていきましょう。まるで、初めての街を歩く前に、地図を広げて全体像を把握するようなものです。

1. S:Segmentation(セグメンテーション)- 市場を細かく分ける

セグメンテーションとは、広くて色々な人がいる市場を、共通のグループに「仕分け」することです。例えるなら、お店の前に並んだたくさんのお客様を、「男性」「女性」「子ども連れ」「ビジネスマン」といったグループに分けてみるイメージです。

なぜこんなことをするのでしょうか? それは、お客様によって求めるものが違うからです。男性が欲しがるものと女性が欲しがるものは違いますし、子ども連れの家族と一人暮らしのビジネスマンでは、優先順位が全く違いますよね。

顧客を分けるための主な「軸」は、いくつかあります。

  • 地理的セグメンテーション(どこに住んでいるか?)
    • 場所:国、地域、都道府県、都市、田舎など
    • 例:雪国でヒーターが売れる、沖縄で水着が売れる、都会で満員電車避けのサービスが売れる
    • ポイント:住んでいる場所によって、気候や文化、生活習慣が違うから、欲しいものも変わってくるよね。
  • 人口統計的セグメンテーション(どんな人か?)
    • 属性:年齢、性別、収入、職業、家族構成、学歴など
    • 例:20代女性向けのファッション雑誌、子育て中のママ向け時短家電、年金生活者向けのお得な旅行プラン
    • ポイント:一番分かりやすくて、よく使われる分け方。誰でもすぐにピンとくるでしょ?
  • 心理的セグメンテーション(どんな考え方の人か?)
    • 価値観:ライフスタイル、性格、興味・関心、意見、どんなことを大切にしているか
    • 例:健康を第一に考える人向けのオーガニック食品、アウトドア好き向けのキャンプ用品、流行に敏感な人向けの最新ガジェット
    • ポイント:同じ年齢や性別でも、考え方が違うと買うものも違うよね。「この人はどんなことを考えているんだろう?」と想像するのがコツ。
  • 行動的セグメンテーション(どんな使い方をするか?)
    • 行動:購入頻度、購入量、どんな時に使うか、何を重視して選ぶか(価格か品質か?)、どのくらいブランドが好きか
    • 例:毎日使うヘビーユーザー向けの大容量パック、記念日など特別な時に買う高級品、価格が安いとすぐ飛びつく人、ずっと同じブランドを使い続ける人
    • ポイント:お客様が実際にどう行動しているかを見るのが一番確実!「どんな時、どんな風に使ってるかな?」と考えてみよう。

これらの軸を一つだけでなく、いくつか組み合わせて使うことで、もっと具体的なお客様のグループが見えてきます。例えば、「都心に住む、健康志向の30代女性で、週に3回ジムに通い、オーガニック食品をよく買う人」といった具合です。ここまで細かく分けると、「あ、あの人のことか!」と顔が思い浮かぶようになりますよね。

2. T:Targeting(ターゲティング)- 狙うお客様を決める

セグメンテーションで市場をいくつかのグループに分けたら、次は「どのグループを狙うか」を決めます。これがターゲティングです。すべてのグループを狙うのではなく、自分たちのビジネスが一番力を発揮できる、あるいは一番儲かりそうなグループに的を絞るんです。

例えるなら、釣りをする時に、闇雲に糸を垂らすのではなく、「この池には鯛がたくさんいるらしいから、鯛を専門に狙おう!」と決めるようなものです。

ターゲティングには、いくつかの基本的な方法があります。

  • 無差別型マーケティング(マスマーケティング):
    • 市場全体を一つの大きな塊として見て、特定のセグメントを区別せず、すべての人に同じ製品やメッセージでアプローチします。
    • 特徴:大量生産・大量販売に向いている。コストが安い。
    • 限界:現代のように多様なニーズがある市場では、誰にも響かない可能性が高い。
  • 差別型マーケティング:
    • 複数のセグメントをターゲットにし、それぞれのセグメントに合わせた異なる製品やマーケティング戦略を展開します。
    • 特徴:幅広い顧客に対応できる。ブランドイメージを多角的に構築できる。
    • 課題::複数の戦略が必要なので、コストや手間がかかる。
  • 集中型マーケティング:
    • 特定の1つまたは少数のセグメントに経営資源を集中させ、そのセグメントのニーズを深く満たすことに特化します。
    • 特徴:限られた資源でも、特定の分野で強い競争優位を築ける。ニッチ市場の開拓に向いている。
    • 課題::そのセグメントの市場規模が小さい場合、成長の限界がある。そのセグメントに依存しすぎるリスクもある。

中小企業やスタートアップの場合、資源が限られているため、「集中型マーケティング」を選ぶことが多いです。特定のグループに特化することで、その分野では大企業にも負けない「一番」になれる可能性があるからです。

例えば、世界中で高級車を売る大企業ではなく、特定の地域で「最高の修理技術」を誇る専門の自動車修理工場が、その地域に住む高級車オーナーの信頼を独占するようなものです。

3. P:Positioning(ポジショニング)- お客様の心の中で、あなたの場所を決める

セグメンテーションで「誰がいるか」を見て、ターゲティングで「誰を狙うか」を決めたら、いよいよポジショニングです。

ポジショニングとは、「お客様の心の中で、あなたの会社や商品がどんな位置づけにあるか」を決めることです。ライバルと比べて、「うちは何が違うのか?」「お客様にどう思われたいか?」を明確にすること、と言い換えられます。

例えるなら、友達に「私ってどんな人?」と聞かれた時に、「面白い人」「優しい人」「頼れる人」といったように、相手の心の中で自分のイメージを確立するようなものです。

ポジショニングを考える時に役立つのが「ポジショニングマップ」です。これは、横軸と縦軸の2つの軸を使って、ライバル商品と自社商品を配置する図です。軸には、お客様が商品を選ぶ際に重要視する要素を選びます。

ポジショニングマップの例:

  • 軸の選び方:「価格」と「品質」、「機能性」と「デザイン性」、「高級感」と「手軽さ」など、お客様が商品を選ぶ決め手になるものを2つ選びます。
  • 配置:それぞれの軸に沿って、自社の商品とライバル商品をプロット(配置)していきます。
  • 「空いている場所」を探す:マップを見ると、「ここにまだ誰もいないな」「ここならうちの商品が一番になれるぞ」という場所が見つかるかもしれません。それが、あなたが狙うべき「ポジショニング」のヒントになります。

例えば、コーヒー市場で「高級感×手軽さ」という軸で考えた場合、インスタントコーヒーは「手軽さ」が高いが「高級感」は低い位置に、本格的なコーヒー豆は「高級感」が高いが「手軽さ」は低い位置にきます。もしあなたが「手軽だけど本格的な味を楽しめる」というコーヒーを開発したら、その空白地帯に「カプセル式コーヒーメーカー」としてポジショニングできるかもしれません。

ポジショニングは、単に「他と違う」ことを示すだけでなく、「お客様にどう思われたいか」という具体的なイメージを伝えることが重要です。お客様の心の中に、しっかりとあなたの場所を確保することで、選ばれる理由が明確になるのです。

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