名著『アイデアのつくり方』から学ぶバナー広告の発想法

AIが進化し、あらゆる情報があふれる現代。そんな時代だからこそ、私たちの「人間の思考力」が問われています。特にマーケティングの世界では、AIが生成した情報だけでは心に響くものは作れません。今回は、広告業界の古典的名著『アイデアのつくり方』から、見る人の心を動かすバナー広告のアイデアを生み出すヒントを探っていきましょう。

ジェームス・W・ヤング

この本は、アメリカの広告業界で活躍したジェームス・W・ヤングという人が書いたもので、今から80年以上も前に出版されました。でも、書かれていることはAI時代の今でもまったく色褪せていません。むしろ、AIが自動で広告を作る時代だからこそ、「人間がどうやってアイデアを生み出すか」という視点は、ますます重要になっています。

バナー広告は、ウェブサイトやアプリで見かける小さな広告のことです。ただ商品をアピールするだけでなく、一目見ただけで「おもしろそう」「役立ちそう」と思わせるような工夫が必要です。AIはデータに基づいて最適な組み合わせを提案できますが、人々の感情を揺さぶるような「ハッとする」アイデアは、やはり人間の思考から生まれるものです。


目次


アイデアはどこから生まれる?『アイデアのつくり方』の基本

ジェームス・W・ヤングは、『アイデアのつくり方』の中で、アイデアが生まれるプロセスを5つのステップで説明しています。彼は「アイデアとは、既存の要素の新しい組み合わせである」と言っています。つまり、まったく何もないところからポンと生まれるものではなく、すでにある情報や知識を組み合わせて、新しいものを作り出すのがアイデアだということです。

これはバナー広告を作る上でもとても大切な考え方です。たとえば、どんなに素晴らしい商品でも、ただ商品の写真と価格を並べただけでは、なかなか人の心には響きません。そこに「どんな人に役立つか」「どんな悩みを解決できるか」「使ったらどんな楽しいことが待っているか」といった情報を、見た人が「なるほど」と思うような形で組み合わせることが、良いバナー広告につながるのです。

ステップ1:資料を集める〜バナー広告の素材探し

最初のステップは、アイデアの材料となる情報をたくさん集めることです。ヤングはこれを「知的な原材料を集める」と表現しています。

  • 特定の資料を集める:これは、バナー広告を作る対象となる商品やサービスに関する情報のことです。
    • 商品の特徴やメリット:どんな機能があるか、何が良い点か、他の商品とどこが違うかなど、徹底的に調べます。
    • ターゲットとなる人の情報:どんな人がこの商品を使うのか、どんなことで困っているのか、どんなことを求めているのかなどを考えます。たとえば、中学生向けの学習塾のバナー広告なら、どんな勉強の悩みを抱えているか、どんな成績を目指しているかなどを想像してみます。
    • 競合他社の情報:他の会社がどんな広告を出しているのか、どんなアピールをしているのかも知っておくと良いでしょう。
  • 一般的な資料を集める:これは、商品やサービスとは直接関係ないけれど、世の中の出来事、歴史、科学、芸術、流行など、幅広い知識のことです。
    • 普段から色々なことに興味を持ち、本を読んだり、ニュースを見たり、映画を観たり、友達と話したりして、たくさんの情報をインプットしておくことが大切です。
    • 「え、バナー広告と関係ないじゃない」と思うかもしれませんが、こうした幅広い知識が、後で「なるほど、これとこれを組み合わせたら面白い」というアイデアの源になることがあるのです。

バナー広告での実践例:
例えば、新しいスマートフォン用のアプリ「猫の育成ゲーム」のバナー広告を作るとします。

  • 特定の資料:アプリの機能(どんな猫がいるか、どんな遊びができるか、他のゲームとの違い)、ターゲット(猫好きの若者、癒しを求める人)、競合アプリの広告デザインなど。
  • 一般的な資料:猫の種類や習性、癒しに関する研究、ゲーム業界のトレンド、可愛いデザインの傾向など。

ステップ2:集めた資料をじっくり考える〜バナー広告の方向性を探る

集めた資料を、頭の中でじっくりと、そして色々な角度から考えてみます。ヤングは「これらの資料を咀嚼(そしゃく)する」と表現しています。まるで食べ物を噛み砕いて消化するように、情報を頭の中で整理し、つながりを探す作業です。

  • 情報を分類する:似たような情報、対立する情報、面白いと思った情報などに分けてみます。
  • 情報を組み合わせる:「もし、この情報とこの情報を組み合わせたらどうなるだろう?」と考えてみます。
  • 疑問を投げかける:「なぜこの商品は売れるんだろう?」「なぜこの広告は目を引くんだろう?」と、常に疑問を持ち、その答えを探すように考えます。
  • 書き出す:思いついたことや、情報のつながりをメモしたり、図に書いたりしてみるのも良い方法です。頭の中だけで考えると混乱しやすいので、一度外に出してみることで整理しやすくなります。

この段階では、まだ「これだ!」という完璧なアイデアが出てこなくても問題ありません。とにかく、情報をあれこれといじり倒すことが重要です。

バナー広告での実践例:
「猫の育成ゲーム」の例で考えてみましょう。

  • 集めた情報の中から「猫の可愛らしさ」と「癒し効果」というキーワードを組み合わせられないか?
  • 「忙しい現代人が手軽に癒される」という視点と「ゲーム」をどう結びつけるか?
  • 「ゲームに登場する猫の動き」と「ユーザーの日常のストレス軽減」を関連付けられないか?

「仕事で疲れた人が、スマホで可愛い猫を見て癒される」というような、具体的な情景を想像してみます。この時点ではまだバナー広告のデザインまで考えなくても大丈夫です。どんなメッセージを伝えたいか、どんな感情を呼び起こしたいか、という方向性を探るのです。

ステップ3:アイデアを温める〜無意識の力を使う

ステップ2で資料をじっくりと考えた後、一度その問題から離れて、リラックスする時間を作ります。ヤングは「意識の領域から離れる」と表現しています。まるで、頭の中に入れた情報を、一度眠らせておくようなイメージです。

  • 散歩をする
  • お風呂に入る
  • 音楽を聴く
  • 運動をする
  • 好きなことに没頭する
  • 寝る

など、アイデアのことを全く考えない時間を作ります。これは、脳が無意識のうちに、集めた情報や考えたことを整理し、組み合わせ作業を進めてくれる時間です。私たちが意識していない間に、頭の中で「勝手に」アイデアが熟成されていくのです。

「煮詰まってしまった」「良いアイデアが思いつかない」と感じたら、無理に考え続けずに、一度休憩することが大切です。そうすることで、思わぬ瞬間にひらめきが訪れることがあります。

ステップ4:ひらめきが訪れる〜「アハ体験」の瞬間

ステップ3でリラックスしている最中や、全く別のことをしている時に、突然「あっ、これだ!」とアイデアがひらめくことがあります。ヤングはこれを「ひらめきの瞬間」と呼びます。心理学では「アハ体験」とも言われます。

  • シャワーを浴びている時
  • 電車に乗っている時
  • 寝起きにふと
  • 友達と話している最中

など、人によってひらめきのタイミングは様々です。これまでのステップで集めて、考えた情報が、無意識の中で結びつき、新しい形で頭の中に現れるのです。

ひらめきがあったら:
どんなに小さなひらめきでも、すぐにメモすることが大切です。人間の記憶はあいまいなので、「後で思い出そう」と思っても忘れてしまうことがよくあります。スマホのメモ機能を使ったり、手帳に書き込んだりして、その瞬間のアイデアを確実に記録しておきましょう。

ステップ5:アイデアを現実のものにする〜バナー広告として形にする

ひらめいたアイデアを、実際に形にするのが最後のステップです。ヤングはこれを「アイデアを最終的な形で現実の世界に出す」と説明しています。

  • アイデアを具体化する:ひらめいたアイデアが、本当にバナー広告として機能するかどうかを考えます。
    • どんなコピー(短い文章)が良いか?
    • どんな画像やイラストが良いか?
    • どんな色を使うと効果的か?
    • 見る人にどんな行動をとってほしいか?(例: クリックして詳細を見る、ダウンロードする)
  • アイデアを検証する:できあがったバナー広告を、他の人に見てもらったり、実際にウェブサイトに表示してみて、効果を試したりします。
    • 意図したメッセージが伝わるか?
    • 目を引くデザインになっているか?
    • クリックしたくなるか?
  • 修正を重ねる:もし、うまくいかない点があれば、改善を繰り返します。完璧なアイデアは最初から生まれるものではありません。試行錯誤を重ねることで、より良いものになっていくのです。

このステップは、アイデアを「ふわっとした考え」で終わらせず、「具体的な成果」に結びつけるための大切な作業です。

バナー広告での応用例を見てみよう

では、これまでのステップを踏まえて、具体的なバナー広告のアイデアを考えてみましょう。

例1:オンライン英会話スクールのバナー広告

ステップ1:資料収集

  • 特定資料:英会話スクールの特徴(いつでもどこでも、ネイティブ講師、リーズナブルな価格)、ターゲット(忙しい社会人、英語を学び直したい人)、競合の広告(ビジネス英語、TOEIC対策などが多い)。
  • 一般資料:英語学習の挫折経験、海外旅行への憧れ、ビジネスでの英語の必要性、自宅でできる趣味、スキマ時間の活用法など。

ステップ2:思考と咀嚼

  • 「忙しい」と「英語学習」をどう結びつけるか?
  • 「海外への憧れ」と「手軽な学習」を両立できないか?
  • 「英語が話せるようになったらどんな良いことがあるか」を具体的にイメージさせるには?

ステップ3&4:温めとひらめき

一度考えから離れて、散歩中にふと「あ、そうだ、カフェでコーヒーを飲みながらでも、海外とつながれるって面白いんじゃないか?」とひらめきました。

ステップ5:具体化

  • コピー案:「いつものカフェが、世界とつながる場所に。1日25分、スキマ時間でネイティブ英会話。」
  • 画像案:おしゃれなカフェで、ノートパソコンを開いて笑顔でオンライン英会話をしている人の写真。背景には世界地図や飛行機のイラストを薄く入れる。
  • 行動を促す言葉:「今すぐ無料体験を始める」

このバナー広告は、忙しい人でも手軽に英語学習ができるというメリットと、英語学習が「世界とつながる」というワクワクする未来を結びつけています。具体的な情景を想像させることで、見る人の興味を引くことを狙っています。

例2:体に優しいパン屋さんのバナー広告

ステップ1:資料収集

  • 特定資料:パン屋さんの特徴(無添加、国産小麦、手作り、アレルギー対応)、ターゲット(健康志向の家族、小さな子供がいる親)、競合の広告(安さ、種類豊富などが多い)。
  • 一般資料:食の安全への関心、アレルギーの悩み、家族の健康、手作りの温かさ、毎日の食卓の風景など。

ステップ2:思考と咀嚼

  • 「無添加」や「アレルギー対応」を、単なる情報としてではなく、どんな安心感や幸せにつながるかで伝えるには?
  • 「パン」を通じて、どんな家族の風景を想像させられるか?
  • 「手作り」の温かさをどう表現するか?

ステップ3&4:温めとひらめき

休日に子供と公園で遊んでいる時に、「そうか、このパンを食べれば、子供が安心して笑顔になる、そんな日常を描けばいいんだ」とひらめきました。

ステップ5:具体化

  • コピー案:「今日のおやつは、ママも安心。無添加パンで、とびきりの笑顔を。」
  • 画像案:子供が美味しそうにパンを食べている笑顔の写真。背景には温かい光が差し込む食卓の風景。
  • 行動を促す言葉:「アレルギー対応パンの詳細を見る」

このバナー広告は、単に「無添加です」と伝えるだけでなく、その先にある「子供の笑顔」「ママの安心」という感情に訴えかけています。商品がもたらす幸福な情景を想像させることで、ターゲット層の心を掴むことを狙っています。

AI時代にこそ輝く「人間の思考力」

AIは、膨大なデータから法則を見つけ出し、最適解を導き出すのが得意です。しかし、人々の感情や文化、時代の空気といった複雑な要素を理解し、それらを「新しい組み合わせ」として表現するクリエイティブな発想は、やはり人間の得意分野です。

『アイデアのつくり方』で紹介されているアイデア創出のプロセスは、AIがどんなに進化しても、私たちが「人間」として価値あるものを生み出すための、変わらない土台となります。

バナー広告一つをとっても、AIが生成する無数のパターンの中から、本当に人々の心に残り、行動を促すのは、人間の「共感力」と「創造力」から生まれたアイデアです。

AIを道具として使いこなしながら、私たちはこの古典から学び、「AIには生み出せない」ような心揺さぶるアイデアを追求していくべきなのです。

まとめ

今回は、古典的名著『アイデアのつくり方』を参考に、バナー広告のアイデアを生み出すための5つのステップをご紹介しました。

  1. 資料を集める:商品やターゲットに関する情報と、幅広い一般知識を収集する。
  2. 集めた資料をじっくり考える:情報を整理し、様々な角度から組み合わせを試みる。
  3. アイデアを温める:一度問題から離れ、無意識に情報を整理させる時間を作る。
  4. ひらめきが訪れる:思いがけない瞬間に現れるアイデアを逃さずメモする。
  5. アイデアを現実のものにする:ひらめきを具体的に形にし、検証・修正を繰り返す。

AIが進化しても、人間の「思考力」と「発想力」の重要性は変わりません。むしろ、AIを使いこなすためにも、この古典的なアイデア創出のプロセスを理解し、実践することが、これからのマーケティングにおいてますます重要になってきます。

あなたも今日から、身の回りにある情報に目を向け、この5つのステップを意識して、心に響くアイデアを生み出す練習を始めてみませんか。きっと、あなたの日常がよりクリエイティブで楽しいものになるでしょう。

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