価格競争が激しく、でも大きな会社のように広告に何百万もかける予算もない。そんな時、どうすればお客さんに「あなた」を見つけてもらい、選んでもらえるのでしょうか。今回の「マーケティング古典教室」では、W・チャン・キムとレネ・モボルニュによる名著**『ブルー・オーシャン戦略』**を参考に、限られた予算の中でも「競合のいない新しい市場(ブルー・オーシャン)」を見つけ、そこで独り勝ちするための5つの具体的な戦術を学びます。
目次
- 『ブルー・オーシャン戦略』とはどんな本か?
- 「レッド・オーシャン」と「ブルー・オーシャン」
- なぜ今、AI時代に『ブルー・オーシャン戦略』が重要なのか?
- 予算1万円から実践可能!『ブルー・オーシャン』で突き抜ける5つの戦術
- AIを「ブルー・オーシャン」発見のツールにする
- まとめ:あなただけの「青い海」を目指そう
1. 『ブルー・オーシャン戦略』とはどんな本か?
W・チャン・キムとレネ・モボルニュという二人の経営学者が書いた**『ブルー・オーシャン戦略』は、世界中で大ヒットしたビジネス書です。この本は、従来のビジネスの常識を覆すような、とても画期的な考え方を提案しています。
これまでのビジネスでは、競合他社に「どう勝つか」ということに力を入れるのが一般的でした。例えば、「うちの会社は競合よりも安くする」「うちの会社は競合よりもサービスの種類を増やす」といったように、すでに存在する市場の中で、相手と戦うことに集中していたのです。
しかし、『ブルー・オーシャン戦略』は、そうではなく、「戦う必要のない、新しい市場を自分で作り出してしまおう」**という考え方を提唱しています。つまり、誰もいない、競争のない「青い海(ブルー・オーシャン)」を自分で見つけ出し、そこで独占的にビジネスを進めていこう、というアプローチです。
この本は、単にアイデアを出すだけでなく、実際に多くの企業がどのようにしてブルー・オーシャンを作り出したのか、具体的な事例をたくさん紹介しています。例えば、カナダの有名なサーカス団「シルク・ドゥ・ソレイユ」は、動物を使わず、有名なスターも雇わず、代わりに演劇やバレエの要素を取り入れて、これまでになかった新しいエンターテイメントを作り出し、サーカス業界の「青い海」を切り開きました。彼らは、既存のサーカスと戦うのではなく、新しい価値を提供することで、全く新しい客層を獲得したのです。
2. 「レッド・オーシャン」と「ブルー・オーシャン」
『ブルー・オーシャン戦略』の核となるのが、「レッド・オーシャン」と「ブルー・オーシャン」という二つの海のたとえです。
- レッド・オーシャン(Red Ocean:赤い海) これは、すでにたくさんの競合他社がひしめき合い、激しい競争が繰り広げられている既存の市場を指します。まるで、獲物を求めてたくさんのサメが血を流し、海が赤く染まっているようなイメージです。この海では、価格競争が激しく、利益を出すのが難しくなります。新しいお客さんを獲得しようとしても、たくさんのライバルがいるので、なかなかうまくいきません。 あなたの周りのWeb制作業界も、もし「一番安いWebサイトを作ります」「どんなサイトでも作ります」といったアピールばかりが目につくなら、それは「レッド・オーシャン」である可能性が高いです。お客さんからすれば、「どこに頼んでも同じなら、安いところが良い」と思ってしまいがちになります。
- ブルー・オーシャン(Blue Ocean:青い海) 一方、こちらはまだ誰も足を踏み入れていない、競争のない新しい市場を指します。まるで、広々とした、穏やかで誰もいない青い海のようなイメージです。この海では、あなたが独占的にサービスを提供できるため、価格競争に巻き込まれることなく、高い利益を上げることができます。お客さんも、あなたのサービス以外に選択肢がないため、迷うことなくあなたを選んでくれる可能性が高まります。 Web制作で言えば、「こんなWebサイトを、こんな方法で作ってくれるのは、あの人だけだ」と思わせるような、独自のサービスやターゲットを見つけることが、ブルー・オーシャンを見つけることにつながります。
3. なぜ今、AI時代に『ブルー・オーシャン戦略』が重要なのか?
AIの進化が目覚ましい現代では、この『ブルー・オーシャン戦略』の考え方がこれまで以上に重要になっています。
- AIによる標準化とレッド・オーシャン化の加速 AIは、データに基づいて「平均的」で「効率的」な解決策を導き出すのが得意です。例えば、AIがWebサイトのデザインを自動で生成するようになると、多くのWebサイトが似たようなデザインや機能を持つようになり、サービスの「標準化」が進みます。そうなると、お客さんから見て「どこに頼んでも同じ」という状況になり、価格競争がさらに激化し、「レッド・オーシャン」がますます赤くなってしまう可能性があります。
- 人間ならではの「価値創造」の重要性 AIが効率化や標準化を進める一方で、人間が持つ**「未だに気づかれていないニーズ」を発見する力や、「常識を覆す新しいアイデア」を生み出す力**が、ブルー・オーシャンを見つけるためのカギとなります。AIは既存のデータの組み合わせから最適解を探しますが、人間のように全く新しい価値や、感情に訴えかけるような体験を創造することはまだ得意ではありません。 だからこそ、AIが提供する情報やツールを使いこなしつつも、人間ならではの深い洞察力で、誰も気づいていない「青い海」を探し出すことが、これからの時代に「1人勝ち」するための重要な戦略となるのです。
4. 予算1万円から実践可能!『ブルー・オーシャン』で突き抜ける5つの戦術
それでは、具体的な5つの戦術を見ていきましょう。これらは、大企業だけでなく、独立したばかりのWeb屋さんでも、少ない予算(例えば1万円くらいの投資)で始められるような具体的なアプローチです。この5つの戦術は、『ブルー・オーシャン戦略』で紹介されている「戦略キャンバス」や「4つのアクション」というツールを、より分かりやすく実践できるようにアレンジしたものです。
戦術1:どこも「やっていない」ことを「捨てる」
「捨てる」というのは、今のWeb制作業界で「当たり前」とされていることや、みんなが力を入れているけれど、実は**「お客さんにとってそこまで重要ではないこと」を、思い切ってやめる**ということです。そうすることで、あなたのサービスに無駄がなくなり、コストも削減できます。これは、学校のテスト勉強で、「ほとんど出ない問題」を潔く諦めて、その分の時間を「よく出る問題」に集中するようなものです。
- 実践ポイント(例:Webサイト制作)
- **超複雑な多機能サイトの提供をやめる**: 大企業向けの何十ページもあるような複雑なWebサイト制作は、多くのWeb屋さんが競合しています。もしあなたのターゲットが小さな飲食店や個人事業主なら、彼らにとっては「シンプルで、予約や問い合わせがしやすいWebサイト」の方が重要かもしれません。複雑な機能の提供を「捨てて」、シンプルさに特化することで、制作コストと時間を大幅に削減できます。
- **最新技術の「追いかけっこ」をやめる**: 常に新しい技術(AIツールや複雑なアニメーションなど)を追いかけるのは大変なコストと学習時間が必要です。もしそれがお客さんのビジネスに直結しないなら、過剰な技術追求を「捨てて」、成果に直結するWebサイトの基本機能(SEO、使いやすさ、スマホ対応)に集中するのも一つの手です。
- **「どんなサイトでも作ります」をやめる**: あらゆる種類のWebサイトに対応しようとすると、中途半端になりがちです。「なんでも屋」になることを「捨てて」、特定の業界や用途に特化することで、その分野でのあなたの専門性を高め、お客さんからの信頼を得やすくなります。
この「捨てる」ことで生まれる余裕が、後で説明する「新しい価値」を生み出すためのエネルギーになるのです。
戦術2:「当たり前」を「減らす」
「減らす」とは、既存の業界で「当たり前」とされていることや、競合他社が力を入れていることの中で、**「お客さんがそれほど求めていない、あるいはそこまで力を入れる必要がない」ことを、質や量を減らす**ということです。全てを完璧にしようとせず、顧客が本当に求める価値に集中するための戦術です。
- 実践ポイント(例:Webサイト制作)
- **打ち合わせ回数を減らす**: 一般的にWebサイト制作では何回も打ち合わせを重ねることが多いかもしれません。しかし、もしお客さんが「忙しいから、できれば少ない回数で済ませたい」と考えているなら、オンラインでのシンプルなヒアリングシートを活用したり、初回打ち合わせでしっかり情報を引き出すことで、打ち合わせ回数を「減らす」ことができます。その分、あなたは制作に集中できますし、お客さんにとっても手間が省けます。
- **デザインの凝りすぎを減らす**: 非常に凝ったアニメーションや特殊効果は、制作に時間もコストもかかります。もしあなたのターゲットが「見やすくて、情報がしっかり伝われば十分」と考えているなら、過度なデザイン要素を「減らして」、シンプルで機能的なデザインに集中しましょう。その分、価格を抑えたり、制作期間を短縮したりすることが可能になります。
- **初期費用を減らす**: Webサイト制作の初期費用が高いことが、中小企業や個人事業主にとってのハードルになっている場合があります。もしあなたが「初期費用を極力抑え、代わりに月額の保守費用で長くお付き合いする」というモデルを考えているなら、初期費用を「減らす」ことで、これまでWebサイトを持つことを諦めていた層にアプローチできます。
「減らす」ことで、あなたは他社との差別化を図りつつ、コストを抑え、お客さんにとっての「無駄」をなくすことができます。
戦術3:新しい「価値」を「増やす」
「増やす」とは、既存のWeb制作業界で「当たり前」とされていることの中で、**「お客さんがもっと欲しい、もっとあれば嬉しい」と思っていることを、質や量を増やしていく**ことです。これは、他のWeb屋さんもやっていることですが、あなたはそれを「もっと」提供する、ということです。
- 実践ポイント(例:Webサイト制作)
- **納品後のSEO対策サポートを増やす**: Webサイトは作って終わりではありません。検索エンジンで上位表示されるためのSEO対策は、お客さんの集客に直結する重要な要素です。もし他のWeb屋さんが簡単なSEO対策しかしないなら、あなたは「Webサイト納品後3ヶ月間の無料SEOアドバイス」や「毎月の検索順位レポート」といったサポートを「増やす」ことで、お客さんに「ここまでやってくれるのか」という価値を提供できます。
- **問い合わせ対応のスピードを増やす**: お客さんからの問い合わせや修正依頼に対し、他のWeb屋さんが数日かかるなら、あなたは「24時間以内の返信」や「急ぎの修正は即日対応」といった対応スピードを「増やす」ことで、お客さんのストレスを減らし、満足度を高めることができます。スピードは、AI時代において最も重視される価値の一つです。
- **ヒアリングの深さを増やす**: Webサイト制作の初期段階で、お客さんのビジネスや目標について、他のWeb屋さんよりも深くヒアリングする時間を「増やす」ことで、お客さんは「私のことを真剣に理解しようとしてくれている」と感じます。これにより、お客さんの事業に本当に役立つWebサイトを提案・制作できるようになります。
「増やす」ことで、あなたは競合と同じ土俵に立ちつつも、お客さんにとっての「お得感」や「満足度」を向上させることができます。
戦術4:これまでになかった「新しい価値」を「創造する」
これは、「捨てる」「減らす」「増やす」の3つの戦術を踏まえた上で、**既存のWeb制作業界には全くなかった、新しいサービスや価値をゼロから作り出す**ことです。これが、まさに「ブルー・オーシャン」を作り出すための最も重要な戦術です。誰もやっていないからこそ、あなたが独占的な地位を築ける可能性があります。これは、これまで誰も考えなかった全く新しいゲームを自分で作り出すようなものです。
- 実践ポイント(例:Webサイト制作)
- **「売上アップ保証付き」Webサイト制作**: 例えば、「Webサイト公開から半年以内に売上が〇〇%上がらなかったら、制作費用の一部を返金します」といった、成果にコミットする保証付きのプランを「創造する」ことができます。これは、お客さんにとって非常に安心感があり、他社にはない大きな魅力となります。ただし、これにはあなたのWebサイト制作スキルと、Webマーケティングの深い知識が必須です。
- **業界特化型テンプレート+集客コンサルティング**: 特定の業界(例:小さな工務店、個人サロンなど)に特化し、その業界で成果が出るWebサイトのテンプレートを独自に開発します。そして、テンプレートを提供するだけでなく、そのWebサイトを使って実際に集客を成功させるための月額コンサルティングをセットで「創造する」のです。これにより、お客さんは「Webサイト」だけでなく「集客」という結果を手に入れることができます。
- **AIを活用した「超パーソナル」Webサイト提案**: AIの分析能力を最大限に活用し、お客さんの事業内容や顧客層、競合情報などをAIで深く分析した上で、「あなただけのWebサイト戦略レポート」を初回ヒアリング時に提供するサービスを「創造する」ことも可能です。AIが分析した客観的データと、あなたの人間的な提案力を組み合わせることで、他社には真似できない価値を生み出します。
「創造する」戦術は、最も難易度が高いですが、成功すれば最も大きなリターンを得られる可能性を秘めています。
戦術5:顧客の「未開拓ニーズ」を見つける
最後の戦術は、顧客自身もまだ気づいていない、あるいは表現できていない**「隠れたニーズ」や「潜在的な不満」を見つけ出し、そこに応えるサービスを提供する**ことです。お客さんが言葉にできない「モヤモヤ」をあなたが解決してあげることで、そのお客さんはあなたを「本当に自分のことを分かってくれる人」と感じ、強い信頼関係が生まれます。
例えば、あなたが喉が渇いている時に、誰かが「きっと喉が渇いているだろうと思って」と、何も言わずに冷たい飲み物を差し出してくれたら、感動しますよね。それと同じように、お客さんの「言わずもがなのニーズ」を見つけ出すことが重要です。
- 実践ポイント:
- **顧客の日常を観察する**: お客さんのオフィスを訪問した際や、オンラインミーティングの際に、Webサイト以外の業務で困っていることはないか、どんなことに時間がかかっているかなど、日々の業務の様子をよく観察してみましょう。そこに、Webサイトで解決できる隠れたニーズが見つかるかもしれません。
- **顧客の「言動不一致」に注目する**: お客さんが「うちはシンプルでいい」と言いながら、実は競合の派手なサイトを羨ましがっている、といった「言葉と行動のギャップ」に注目します。そこに、満たされていないニーズが隠されている可能性があります。
- **「非顧客」の分析**: 今あなたの顧客ではない人たち、つまり「Webサイトをまだ持っていない人たち」や「他のWeb屋さんに頼んでいるけれど不満を感じている人たち」が、なぜそうなっているのかを深く分析してみましょう。彼らが抱える「Webサイトに関する不満」の中に、あなたのブルー・オーシャンを見つけるヒントが隠されているかもしれません。例えば、「Webサイト制作費用が高すぎる」「Webサイトを作ってもらっても、その後の運用が大変そう」といった声は、あなたが新しいサービスを考えるきっかけになります。
この戦術は、共感力と観察力が求められますが、AIでは見つけにくい「人間的な深いニーズ」を発掘できるため、大きな差別化につながります。
5. AIを「ブルー・オーシャン」発見のツールにする
ここまで5つの戦術を見てきましたが、AIはこれらの「ブルー・オーシャン」を見つけるための強力なツールとして活用できます。
- 競合分析の効率化: AIは、インターネット上の膨大なデータを瞬時に分析し、競合他社がどんなサービスを提供しているか、どんなキーワードで集客しているかなどを洗い出すことができます。これにより、「捨てるべきもの」「減らすべきもの」を効率的に見つける手助けをしてくれます。
- 顧客データの深堀り: 既存のお客さんの行動データや、問い合わせ内容をAIで分析することで、お客さんが共通して抱える「隠れた不満」や「次に求めているサービス」の傾向を読み解くことができます。これは、「増やすべきもの」や「創造すべき新しい価値」のヒントになります。
- トレンド予測: AIは、Web上の最新トレンドや、特定の業界の今後の動向を予測するのに役立ちます。これにより、まだ誰も手をつけていない「未来の市場」や「未開拓ニーズ」を早期に発見する手がかりを得ることができます。
- アイデアの量産: 特定のテーマやキーワードを与えれば、AIは無限にアイデアを生成してくれます。これを「新しい価値の創造」のヒントとして活用し、そこから人間が「これは面白い」「これはお客さんに響くはずだ」というアイデアを選び、さらに磨き上げていくことができます。
AIはあくまで道具です。AIが提供する情報を鵜呑みにするのではなく、その情報を元に「人間」であるあなたが深く考え、独自のアイデアを生み出し、実行していくことが、『ブルー・オーシャン戦略』を成功させる鍵となります。AIの力を借りつつ、人間ならではの創造力を発揮しましょう。
6. まとめ:あなただけの「青い海」を目指そう
『ブルー・オーシャン戦略』は、決して大企業だけのものではありません。むしろ、予算や人員が限られている小さな会社や、フリーランスのあなたこそ、この考え方を活用して、強大な競合と戦うことなく、自分だけの「青い海」を作り出すチャンスがあるのです。
今日紹介した5つの戦術「捨てる」「減らす」「増やす」「創造する」、そして「未開拓ニーズを見つける」は、どれもすぐにでも考え始められ、小さな一歩から実践できるものです。まずは、あなたのWeb制作のサービスについて、この5つの視点から考えてみてください。例えば、「今のサービスで、お客さんは本当に必要としていないのに力を入れていることはないか?」、「もっと提供すれば喜ばれることはないか?」など、問いかけてみましょう。
AIが普及し、多くの情報があふれる時代だからこそ、単なる効率化や価格競争に走るのではなく、あなた自身の独創性と人間的な洞察力で、誰も気づいていない市場を切り拓くことが、「1人勝ち」するための最良の道となるでしょう。それぞれにとっての青い海」は、必ず見つかるはずです。