マーケティングオートメーションでは補えない“人間”の部分

マーケティングオートメーションって便利だよね。
以前、クライアントのMAツール導入支援をしたことがあって改めて思ったんだけど、設定さえしっかりしておけば24時間365日、見込み客に最適なタイミングでアプローチしてくれる。人間では到底できない作業量をこなしてくれるから、本当に頼もしいパートナーだ。
でもMAがどれだけ進化しても、お客さんの心の奥底にある感情や、まだ言語化されていないニーズを読み取るのは、やっぱり人間の仕事なのかなと。

はじめに:マーケティングオートメーションって、魔法の箱?
私たちの身の回りには、AI(人工知能)を使った便利な道具がたくさんある。例えば、オンラインショップで買い物をすると、「あなたへのおすすめ商品」が表示される。これは、マーケティングオートメーション(MA)という仕組みが働いていることが多い。MAは、お客さんの行動を自動で記録し、それに合わせて最適な情報や商品をタイミング良く提供してくれる、まるで魔法の箱のようなツールだ。

📋 目次

  • 第1章:マーケティングオートメーションの光と影
  • 第2章:MAでは補えない”人間”の部分
  • 第3章:AI時代に磨くべき「人間力」実践ガイド
  • おわりに:AIと「人間力」の美しいハーモニー

MAは、私たちがネットで見たりクリックしたりした情報、お店で買ったり、サービスを使ったりした記録など、たくさんのデータを集めて分析する。そして、「このお客さんはこういうことに興味があるから、このメールを送ろう」「この商品はもうすぐなくなるから、リマインドしよう」といったことを自動で判断し、実行してくれる。

これだけ聞くと、「なんだ、マーケティングって全部AIとMAがやってくれるんじゃないの」と思うかもしれない。確かに、MAはとても賢くて、たくさんの作業を効率良くこなしてくれる。でも、本当にそうだろうか。MAは、どれだけ賢くても、私たち人間が持つ「心」や「感情」の深い部分まで理解できるのだろうか。

実は、MAがどんなに進化しても、絶対に補うことのできない「人間」にしかできない大切な部分がある。この「人間」の部分こそが、AIがどんなに進歩しても、私たちがマーケティングの世界で強く生き残るための、とっておきの秘密なのだ。

第1章:マーケティングオートメーションの光と影

1.1 マーケティングオートメーション(MA)の「光」

MAは、マーケティングの仕事を劇的に効率化し、その効果を高めてくれる素晴らしいツールだ。具体的にどんなことができるのか見てみよう。

  • お客さんの行動を自動で記録・分析 – お客さんがウェブサイトのどのページを訪れたか、どんな商品を見たか、メールを開封したか、リンクをクリックしたかなど、一つ一つの行動を自動で記録する
  • パーソナルな情報提供 – お客さんの興味や行動に合わせて、最適な情報(おすすめ商品、限定クーポン、関連記事など)を自動で提供できる
  • メールやメッセージの自動送信 – 特定の条件を満たしたお客さんに対して、あらかじめ設定しておいたメールやメッセージを自動で送ることができる
  • 営業担当者への情報共有 – お客さんの興味が高まっていると判断した場合、自動で営業担当者に通知し、そのお客さんの行動履歴などの情報もまとめて共有できる
  • 効果測定と改善 – 送ったメールの開封率やクリック率、ウェブサイトでの購入率など、マーケティング活動の成果を数値で確認できる

このように、MAはデータに基づいて、効率的かつ個別にお客さんとコミュニケーションをとることを可能にする。これは、手作業では到底できない、非常に強力な機能だ。

1.2 マーケティングオートメーション(MA)の「影」

しかし、MAにも限界がある。MAは「設定されたルール」や「過去のデータ」に基づいて動くため、以下のような「影」の部分が出てくる。

  • 決められたパターンからの逸脱 – MAは、あらかじめ設定されたシナリオや、過去のデータから学習したパターンに沿って動く。そのため、お客さんの行動がそのパターンから少しでも外れると、うまく対応できないことがある
  • 感情や文脈の理解不足 – お客さんの「なぜ」そう行動したのか、その行動の背景にある「感情」や「状況」を理解することはMAにはできない
  • 新しいアイデアの欠如 – MAは過去のデータから学習し、最適な答えを導き出すが、全く新しい発想や、これまでにない顧客体験を生み出すことはできない
  • 倫理的な判断の難しさ – MAはデータに基づいて判断するため、時に倫理的に問題のある情報提供をしてしまう可能性もゼロではない

つまり、MAはあくまで「ツール」であり、それを「どう使うか」を決めるのは人間だ。そして、MAが苦手とする部分こそが、私たち人間が活躍すべき場所なのだ。

第2章:MAでは補えない”人間”の部分

MAがデータを処理し、自動で動く一方で、私たち人間は、お客さんの「心」に語りかける力を持っている。この「心」のマーケティングは、MAがどれだけ進化しても真似できない、人間ならではの強みだ。歴史上の成功事例から、その「人間」の部分がいかに重要だったかを見ていこう。

2.1 顧客の「潜在的な感情」を読み解く力

MAは、お客さんの「見える行動」を分析するのは得意だが、その行動の奥にある「まだ自分でも気づいていない感情」や「言葉にできない願い」を読み解くことはできない。これは、人間だからこそできる、深い洞察力が必要だ。

ソニーのウォークマン

1979年、ソニーが「ウォークマン」を発売した時、世の中にはすでにステレオがあった。しかし、ウォークマンは、それまでのステレオのように「部屋で音楽を聴く」という固定観念を打ち破り、「いつでもどこでも、自分だけの音楽を楽しむ」という新しい体験を提供した。

当時の人々の「音楽をもっと気軽に楽しみたい」「人目を気にせず、自分だけの世界に没頭したい」という、言葉にはなっていなかったけれど誰もが心の奥底に持っていた感情を、ソニーは読み解いた。MAがあったとしても、既存のデータから「持ち運びできる音楽プレーヤー」という発想が生まれたかどうかは疑問だ。

2.2 「物語」を紡ぎ、感動を生み出す力

人は、単に商品やサービスの情報を受け取るだけでなく、そこに込められた「物語」や「想い」に感動し、心を動かされる。MAは事実を伝えることはできるが、感情を揺さぶる物語を創造し、伝えることは苦手だ。

コカ・コーラのCM

コカ・コーラは、単なる飲み物を売っている会社ではない。彼らのCMは、いつも「幸せ」「友情」「家族の絆」といった、人々の心温まる感情を描いている。例えば、クリスマスの時期になると流れるサンタクロースとコカ・コーラのCMは、多くの人々に笑顔と温かい気持ちを与える。

MAがどれだけデータを分析しても、「幸せ」や「絆」といった抽象的な感情を商品に結びつけ、人々の心を掴むような感動的なストーリーを作り出すことはできない。これは、人間の想像力と、人々の感情に訴えかける表現力があってこそ実現できることだ。

2.3 危機を乗り越え、顧客との「信頼関係」を築く力

MAは、お客さんの行動に基づいて自動で対応することはできるが、予期せぬトラブルや、お客さんからの強いクレームなど、感情が絡む複雑な状況には対応できない。このような時こそ、人間が直接お客さんと向き合い、共感し、誠実な対応をすることで、かえって強い信頼関係を築くことができる。

JALの鶴丸マーク復活

2010年、日本航空(JAL)は会社更生法の適用を申請し、経営破綻した。これは、JALにとって未曽有の危機だった。しかし、その後、再生への道のりを歩み、2011年にはかつての象徴であった「鶴丸」マークを復活させた。

この「鶴丸」復活は、単なるデザインの変更ではなかった。それは、JALが困難を乗り越え、再び信頼を取り戻そうとする決意の表れであり、多くの人々の心に響いた。MAは、危機発生時の迅速な情報提供はできても、企業の「誠意」や「再生への決意」といった、感情的なメッセージを伝え、顧客との深い信頼関係を再構築することはできない。

2.4 「常識を疑い」、新しい価値を創造する力

MAは過去のデータから最適解を見つけるが、既存の常識を打ち破り、全く新しい視点から価値を創造することはできない。これには、人間の批判的思考力と創造性が不可欠だ。

アップルのiPhone

2007年にiPhoneが発売された時、世の中にはすでに携帯電話があった。しかし、iPhoneは、これまでの携帯電話の常識を覆し、インターネット、音楽プレーヤー、カメラなど、様々な機能を一つのデバイスに統合し、直感的な操作で誰もが使えるようにした。

当時の携帯電話のデータだけを見ていたら、「もっと高機能なボタン付き携帯電話」が生まれていたかもしれない。しかし、スティーブ・ジョブズは、「もっと使いやすく、もっと豊かな体験を届けられる携帯電話はないか」という問いを立て、既存の常識を疑い、全く新しい「スマートフォン」というカテゴリーを創造した。

第3章:AI時代に磨くべき「人間力」実践ガイド

MAが自動でやってくれる部分はMAに任せ、私たち人間は、MAでは絶対に真似できない「人間力」を磨くことに集中しよう。では、具体的にどんな力をどうやって磨けば良いのだろうか。

3.1 「聞く力」と「共感力」を深める

お客さんの本当の気持ちを理解するには、ただ話を聞くだけでなく、その背景にある感情や、言葉にならないニュアンスを察する「聞く力」が重要だ。そして、その気持ちに寄り添う「共感力」も不可欠だ。

  • 相手の「なぜ」を考える練習をする – 友達が何かを言った時、ただ「そうなんだ」と聞くだけでなく、「なぜそう思ったんだろう」「どんな気持ちなんだろう」と心の中で問いかけてみよう
  • 相づちや表情で気持ちを伝える – 相手の話を聞く時に、うなずいたり、共感する表情を見せたりすることで、相手は「この人は私の話を聞いてくれている」と感じ、安心して話してくれる
  • 多様な人々と話す機会を持つ – 年齢、職業、考え方が異なる人々と積極的に交流し、様々な価値観に触れることで、共感の幅が広がる

3.2 「想像力」と「創造性」を育む

新しいアイデアや、お客さんの心を動かす物語を生み出すには、自由な発想で物事を考え、まだ誰も気づいていない価値を想像する力が必要だ。

  • 「もしも」を考える遊びをする – 「もし、世界に〇〇がなかったらどうなるだろう」「もし、この商品がこんな風に変わったら」など、常識にとらわれずに「もしも」を想像してみよう
  • 異なるものを「つなげる」練習をする – 全く関係のないように見える二つのものを組み合わせて、新しいアイデアを考えてみよう
  • 芸術や物語に触れる – 小説、映画、絵画、音楽など、人々の感情や想像力に訴えかける作品に触れることで、感性が豊かになり、創造性が刺激される

3.3 「問題発見力」と「本質を見抜く力」を鍛える

MAは与えられた問題を解決するが、そもそも「どんな問題があるのか」を発見し、その問題の「根本原因」を見抜くのは人間の仕事だ。

  • 日常の「不便」や「不満」に気づく – 自分の身の回りで「これって、もっと良くならないかな」と感じることをメモしておこう
  • 「なぜ」を繰り返す – ある問題に直面した時、「なぜそうなっているのだろう」「なぜそうなったのだろう」と、根本原因を深く掘り下げて考えてみよう
  • 多角的に物事を見る – 一つの出来事に対して、自分だけの視点だけでなく、色々な人の立場から見てみよう

3.4 「判断力」と「倫理観」を磨く

AIはデータに基づいて判断するが、それが社会全体にとって良いことなのか、倫理的に許されることなのかを判断することはできない。私たち人間は、AIが提示した情報をどう使うか、何が正しいかを決める最終的な判断者だ。

  • ニュースや社会問題に関心を持つ – 世の中で何が起きているのかを知り、様々な意見に触れることで、物事を多角的に捉える力が養われる
  • 「もし自分が当事者だったら」と考える – ある問題に直面した時、自分や自分の大切な人がその状況だったらどう感じるか、どうしてほしいかを考えてみよう
  • ディベートや議論の機会を持つ – 意見の異なる人々と建設的な議論をすることで、自分の考えを深め、同時に他者の意見を尊重する姿勢を身につけられる

おわりに:AIと「人間力」の美しいハーモニー

MAがどんなに賢く、どんなに便利なツールになったとしても、それはあくまで「道具」だ。その道具をどう使いこなし、どんな目的のために使うのかを決めるのは、私たち人間だ。

AIは、私たち人間がより複雑で、より創造的な仕事に集中するための強力なパートナーになってくれる。MAにデータ分析や自動化を任せることで、私たちは、お客さんの「心」に深く寄り添い、まだ誰も気づいていないニーズを発見し、感動的な物語を紡ぎ、そして新しい価値を創造することに時間とエネルギーを注ぐことができるようになるのだ。

AIと人間は、どちらか一方が優れているという関係ではない。まるでオーケストラの指揮者と演奏者のように、それぞれの役割を理解し、お互いの強みを活かし合うことで、最高のハーモニーを生み出すことができる。

これからのAI時代は、まさに私たち一人ひとりの「人間力」が輝く時代だ。MAという強力なツールを味方につけながら、あなた自身の「心」と「知恵」を磨き、未来のマーケティングを創造していく挑戦を始めてみよう。

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