目次
- はじめに:『ザ・ゴール』ってどんな本?
- ボトルネックとは何か?:一番の障害物を見つけよう
- マーケティングにおけるボトルネック:お客さんが増えない理由
- マーケティングのボトルネックを見つける方法
- ボトルネックを解消する5つのステップ:マーケティング版TOC
- まとめ:ボトルネックをなくして、もっとお店を良くしよう
はじめに:『ザ・ゴール』ってどんな本?
突然ですが、あなたは何か目標を達成しようとするとき、「なかなかうまくいかないな」「なぜか思った通りに進まないな」と感じたことはありませんか? 例えば、部活動で大会に勝ちたい、テストで良い点を取りたい、クラスのイベントを成功させたいなど、どんなことでも良いです。実は、これって、目標達成の邪魔をしている「何か」があるからかもしれません。
今日紹介する本、『ザ・ゴール』は、エリヤフ・ゴールドラットさんという人が書いた、まるで小説のような経営書です。主人公の工場長が、危機に瀕した工場を立て直すために奮闘する物語で、読者は物語を読み進めながら、工場を良くするための大切な考え方、「制約理論(TOC:Theory of Constraints)」というものを自然と学ぶことができます。
「制約理論」って聞くと、ちょっと難しそうに感じるかもしれませんが、簡単に言うと、「ものごとが前に進むのを邪魔している一番の障害物(これを『ボトルネック』と呼びます)を見つけて、それを解決していくことで、全体の流れをスムーズにする」という考え方です。この本は、工場だけでなく、私たちの日常生活や、会社の仕事、もちろんマーケティングにも応用できる、とっても大切な考え方を教えてくれます。
この記事では、『ザ・ゴール』で学べる「ボトルネック」という考え方を、マーケティングに当てはめて考えていきます。マーケティングって何? と思う人もいるかもしれませんが、簡単に言えば「お客さんを増やしたり、商品を売ったりするための活動全般」のことです。この考え方を学ぶことで、なぜお店にお客さんが来ないのか、なぜ商品が売れないのか、その原因を突き止めて、もっと良い方法を見つけるヒントが得られるはずです。高校生の皆さんにもわかるように、具体的な例をたくさん使いながら解説していくので、ぜひ最後まで読んでみてください。
ボトルネックとは何か?:一番の障害物を見つけよう
まずは、『ザ・ゴール』の物語のキーワードとなる「ボトルネック」について、もっと詳しく説明します。ボトルネックとは、ズバリ「全体の流れの中で、一番の障害物になっている部分」のことです。イメージしやすいように、ちょっとした例を考えてみましょう。
水が流れるホースの例
例えば、あなたが庭に水をまくためにホースを使っているとします。このホースのどこかが細くなっていたり、少し潰れていたりしたらどうなるでしょう? そう、そこから出る水の量が、ホース全体の水の量よりもずっと少なくなりますよね。たとえホースの入り口からたくさん水が流れてきても、細くなっている部分が水の量を制限してしまうので、最終的に出てくる水の量はその細い部分の量と同じになってしまいます。
このホースの細くなっている部分が「ボトルネック」です。全体の水の流れは、この一番細い部分に制限されてしまう、ということです。
遊園地の乗り物の例
もう一つ、遊園地に行った時のことを考えてみましょう。人気のアトラクションには長蛇の列ができていますよね。アトラクションの出口ではスムーズに人が出てきても、入り口でチケットをチェックする係の人が一人しかいなかったり、乗り物の定員が少なかったりすると、お客さんが乗れるスピードは、その遅い部分に合わせてしまいます。この場合、チケットチェックの場所や乗り物の定員がボトルネックになっていると考えられます。
つまり、ボトルネックとは、システム全体の能力を決めてしまう「一番遅い部分」「一番詰まっている部分」のことなのです。そして、『ザ・ゴール』が教えてくれるのは、このボトルネックを見つけて、そこを改善することが、全体の生産性を上げるための最も効果的な方法だ、ということです。なぜなら、ボトルネック以外の部分をいくら頑張って早くしても、ボトルネックが詰まっている限り、全体のスピードは上がらないからです。
これをマーケティングに当てはめて考えてみましょう。お客さんがお店に来てくれない、商品が売れないといった問題があるとき、それはどこかにボトルネックが隠れているのかもしれません。
マーケティングにおけるボトルネック:お客さんが増えない理由
さて、ボトルネックが何となく分かってきたところで、これをマーケティングに当てはめて考えてみましょう。お店や会社が「もっとお客さんを増やしたい」「もっと商品を売りたい」と思ったとき、どこかにその目標達成を邪魔しているボトルネックがあるはずです。
例えば、あなたが新しいカフェをオープンしたとします。一生懸命美味しいコーヒーを入れて、素敵な内装にしました。でも、お客さんがなかなか増えません。この時、考えられるボトルネックには、どんなものがあるでしょう?
- お店の場所が分かりにくい:誰もお店の存在を知らない。
- メニューが魅力的でない:コーヒーは美味しいけど、他のお店と比べて特別感がない。
- 値段が高すぎる:高校生のお小遣いでは、毎日来られない。
- お店に入りづらい雰囲気がある:外から中が見えなくて、どんなお店か分からない。
- レジがいつも混んでいて、待つのが大変:お客さんが買うのを諦めてしまう。
- SNSでの情報発信が少ない:お店の魅力を伝えきれていない。
- 一度来てくれたお客さんが、二度と来てくれない:リピーターが少ない。
これらすべてが、お客さんが増えない原因になる可能性があります。しかし、その中でも「一番の原因」になっているものが、マーケティングにおけるボトルネックです。
例えば、いくらSNSで素敵な情報を発信しても、お店の場所が誰にも知られていなければ、お客さんは来ません。この場合、「お店の認知度」がボトルネックになっている可能性があります。逆に、お店の場所はみんな知っているけれど、SNSで魅力が伝わっていないと、興味を持ってもらえません。この場合は、「SNSでの情報発信」がボトルネックかもしれません。
このように、マーケティングの目標達成を阻んでいる「一番の障害物」を見つけることが、成功への第一歩となります。次に、具体的にどのようにボトルネックを見つけていくのか、マーケティングの具体的な段階に合わせて考えていきましょう。
マーケティングのボトルネックを見つける方法
マーケティングのプロセスは、お客さんが商品やサービスを知ってから、実際に購入し、さらに繰り返し利用してくれるまでの、いくつかの段階に分けることができます。このそれぞれの段階で、どこにボトルネックがあるのかを考えてみましょう。一般的に、お客さんが商品やサービスを購入するまでの流れは、以下のようなステップで考えられます。
- 認知(Awareness):商品やサービスの存在を知ってもらう
- 関心(Interest):商品やサービスに興味を持ってもらう
- 検討(Consideration):購入を具体的に考えてもらう
- 購入(Purchase):実際に商品やサービスを買ってもらう
- リピート(Repeat):繰り返し利用してもらう
この流れのどこかで、お客さんが立ち止まってしまっている部分が、ボトルネックになっている可能性があります。
1. 認知のボトルネック:お店や商品を知ってもらえてる?
まず、お客さんはあなたの会社やお店、商品を知っていますか? もし、ほとんど誰も知らない状態であれば、これが一番のボトルネックです。
例:新しくオープンした洋服屋さん
状況:素敵なデザインの洋服を揃えたお店をオープンしたのに、お客さんが全然入ってこない。
考えられるボトルネック:
- お店の看板が小さくて目立たない。
- オープンしたことをSNSやチラシで告知していない。
- お店がある場所が、あまり人が通らない道沿いにある。
解消策のヒント:
- 大きな看板を出す。
- 近所にチラシを配る。
- SNSでオープン情報を発信し、周りの友達にも拡散してもらう。
- 地域のイベントに参加して、お店の存在をアピールする。
お客さんがお店の存在を知らなければ、その先に進むことはできません。まずは「知ってもらう」ための工夫が必要です。
2. 関心のボトルネック:興味を持ってもらえてる?
次に、お客さんはお店や商品の存在を知っているけれど、興味を持ってくれない場合はどうでしょう? 「ふーん、あんなお店があるんだ」で終わってしまっているかもしれません。
例:オンライン学習塾
状況:CMや広告でオンライン学習塾の存在は知られているけれど、なかなか申し込みが増えない。
考えられるボトルネック:
- 広告の内容が、他の塾と似ていて魅力的でない。
- オンライン学習のメリット(家で学べる、好きな時間にできるなど)が十分に伝わっていない。
- 塾の先生の魅力が伝わらない。
解消策のヒント:
- 「成績が〇〇点上がった!」など、具体的な成功事例を広告に載せる。
- 無料体験授業を提供して、オンライン学習の良さを実感してもらう。
- 先生の紹介動画や、生徒とのやり取りの様子をSNSで公開する。
お客さんが「面白そう」「自分に役立ちそう」と感じなければ、次のステップには進めません。興味を引くための情報や体験が重要です。
3. 検討のボトルネック:買おうか迷ってる段階でつまずいてない?
お客さんが商品に興味を持ってくれたとしても、すぐに買うわけではありません。本当に自分に必要なのか、他の商品と比べてどうなのか、といったことを検討する段階に入ります。ここでつまずいている場合もあります。
例:高機能なスマートフォンケース
状況:SNSでスマートフォンのケースの広告を見て「欲しいな」と思ったけれど、購入には至らない。
考えられるボトルネック:
- 値段が高いと感じる。
- 実際に使っている人のレビューや感想が見つからない。
- 自分のスマホに合うかどうかが分かりにくい。
- 「本当にこのケースが良いのかな?」と、他のケースと比較して迷ってしまう。
解消策のヒント:
- 「〇〇円引きキャンペーン」など、購入を後押しする割引を行う。
- 購入者のレビューをたくさん掲載する。
- スマホの機種ごとに、装着イメージの写真や動画を載せる。
- 競合製品との比較表を分かりやすく提示し、自社製品の優位性をアピールする。
お客さんの不安や疑問を解消し、購入へのハードルを下げる工夫が必要です。
4. 購入のボトルネック:買うのが面倒になってない?
「買いたい」という気持ちになっても、購入手続きが複雑だったり、面倒だったりすると、そこで諦めてしまうお客さんもいます。これも立派なボトルネックです。
例:オンラインショッピングサイト
状況:カートに商品が入っているのに、購入手続きが完了しないケースが多い。
考えられるボトルネック:
- 会員登録が必須で、入力項目が多い。
- 支払い方法の種類が少ない(クレジットカードしか使えないなど)。
- 送料が高く感じる。
- 注文ボタンが分かりにくい、またはエラーが出る。
解消策のヒント:
- ゲスト購入(会員登録なしで購入)できるようにする。
- コンビニ払いやキャリア決済など、支払い方法を増やす。
- 〇〇円以上購入で送料無料にする、または送料込みの価格にする。
- 購入までの手順を分かりやすく表示し、入力フォームをシンプルにする。
お客さんがスムーズに購入を完了できるよう、手間を省くことが大切です。
5. リピートのボトルネック:もう一度買ってもらうには?
一度購入してくれたお客さんが、もう一度買ってくれない場合もボトルネックです。新しいお客さんを増やすよりも、一度買ってくれたお客さんにまた来てもらう方が、一般的には費用もかからず、効率的です。
例:美容室
状況:新規のお客さんは増えるけれど、再来店するお客さんが少ない。
考えられるボトルネック:
- サービス内容に満足してもらえなかった。
- 予約が取りにくい。
- 次回の来店を促すようなサービスがない。
- お客さんの好みや来店履歴を把握していない。
解消策のヒント:
- 施術後のアフターケアについて丁寧に説明する。
- 来店後、しばらく経ってから「調子はどうですか?」とメッセージを送る。
- 次回予約割引や、来店回数に応じた特典を用意する。
- お客さんの髪型やカラーの履歴をカルテにしっかり記録し、次回来店時に参考にできるようにする。
お客さんに「また来たい」と思ってもらえるような、満足度を高める工夫や、関係性を築くことが重要です。
このように、マーケティングの各段階で、お客さんがどこで止まっているのかをよく観察することで、ボトルネックを見つけることができます。そして、一番大きなボトルネックを見つけたら、そこに集中して対策を練ることが、全体の成果を大きく伸ばすことにつながります。
ボトルネックを解消する5つのステップ:マーケティング版TOC
『ザ・ゴール』では、ボトルネックを見つけて解決するための5つのステップが紹介されています。これを「制約理論の5段階集中プロセス」と呼びます。マーケティングに当てはめて、これらのステップを考えてみましょう。
ステップ1:ボトルネックを見つける
まずは、どこに問題があるのか、どこがお客さんの流れを一番止めているのかを見つけ出すことです。前の章で説明した「認知」「関心」「検討」「購入」「リピート」のどこで、お客さんが一番つまずいているのか、データを集めたり、お客さんの声を聞いたりして、特定します。
行動のヒント
- お店やサイトのアクセス数、SNSのフォロワー数、お問い合わせ件数、来店者数、購入者数などを記録する。
- お客さんにアンケートを取って、なぜ購入に至らなかったのか、何が不満だったのかを聞いてみる。
- 友人や家族に、お店やサイトを使ってもらって、どこが分かりにくいか、面倒かを聞いてみる。
ステップ2:ボトルネックを最大限に活用する
ボトルネックが見つかったら、すぐに解消できない場合でも、そのボトルネックの能力を最大限に引き出す工夫をします。つまり、ボトルネックをムダなく使う、ということです。
例:人気商品の生産が追いつかないパン屋さん
ボトルネック:特定のパンの製造ラインが、生産量を制限している。
最大限に活用する工夫:
- 製造ラインが稼働している間は、休憩なしでパンを作り続ける。
- 人気のパンを、他のパンより優先して作る。
- 余計な作業を減らし、パン作りに集中できる環境を整える。
- (マーケティング的に)人気パンの売り切れ時間を店頭に表示し、お客さんに「今買わないとなくなる」と思わせる(あえてボトルネックを「見せる」ことで、購買意欲を高める)。
マーケティングに当てはめると、例えば「問い合わせの電話対応がボトルネック」であれば、電話対応の担当者を増やせない間は、電話対応の時間を決めて告知したり、FAQ(よくある質問)を充実させて、お客さんが自分で解決できるようにしたりするなど、現状のリソースでできる最大限の工夫をします。
ステップ3:ボトルネック以外をボトルネックに従わせる
ボトルネック以外の部分は、ボトルネックのスピードに合わせて動かすようにします。ボトルネックではない部分が頑張りすぎると、ボトルネックが詰まってしまい、在庫が増えたり、ムダな動きが増えたりするからです。
例:先ほどのパン屋さん
ボトルネック:人気のパンの製造ライン。
ボトルネック以外を従わせる工夫:
- 他のパンの生産量を調整し、人気のパンの製造ラインが常にフル稼働できるような材料や人員の配置にする。
- 広告活動も、人気のパンに焦点を当て、その製造ラインがさばききれる範囲で集客する。
マーケティングでは、例えば「Webサイトの集客(アクセス)は多いのに、実際に商品が売れない」という場合、Webサイトの改善(購入プロセスや情報提供の改善)がボトルネックであれば、広告でアクセスを増やしすぎると、かえって無駄なコストがかかることになります。Webサイトの改善が進むまでは、広告量を調整するなど、ボトルネックの処理能力に合わせて集客活動を調整する、といった考え方です。
ステップ4:ボトルネックを解消する
ここまできたら、いよいよボトルネックそのものを強化したり、取り除いたりする対策を考えます。新しい設備を導入したり、人員を増やしたり、まったく新しい方法を試したりします。
例:先ほどのパン屋さん
ボトルネック:人気のパンの製造ライン。
解消策:
- 人気のパンの製造ラインを増やす。
- 製造工程を見直し、もっと効率的な方法に変える。
- 職人を増やすために、新しい人を雇って育てる。
マーケティングでは、例えば「Webサイトの購入手続きが複雑」というボトルネックであれば、新しいECサイトシステムを導入したり、購入フォームを簡略化したり、決済方法を増やしたりする、といった具体的な改善策を実行します。
ステップ5:注意するポイント
ボトルネックを解消したら、そこで終わりではありません。なぜなら、以前のボトルネックが解消されると、今度は別の場所がボトルネックになる可能性があるからです。まるで、水が流れやすくなったホースの別の場所が細くなっているのが見つかるように、常にシステム全体を見渡し、新しいボトルネックを探し続ける必要があります。これが「継続的な改善」の考え方です。
注意するヒント
- ボトルネックを解消したら、必ず全体の結果(売上、利益、顧客満足度など)がどう変わったかをチェックする。
- 「次のボトルネックはどこだろう?」という視点で、常に全体のプロセスを観察し続ける。
この5つのステップを繰り返し実行することで、お店や会社のマーケティング活動は、どんどん効率的になり、より多くのお客さんを獲得し、売上を伸ばしていくことができるようになります。
まとめ:ボトルネックをなくして、もっとお店を良くしよう
今日は、名著『ザ・ゴール』から学べる「ボトルネック」という考え方と、それをマーケティングに応用する方法について解説しました。
ボトルネックとは、全体の流れを一番遅くしている「一番の障害物」のことです。そして、このボトルネックを見つけて、そこを重点的に改善していくことが、全体を効率的に良くしていくための最も効果的な方法でした。
マーケティングにおいても、お客さんが商品やサービスを知ってから購入するまでの道のり(認知、関心、検討、購入、リピート)のどこかで、お客さんが立ち止まってしまっている場所がボトルネックになっている可能性があります。
ボトルネックを見つけたら、ただちにそれを解消するのではなく、まずはそのボトルネックを最大限に活用し、他の部分をボトルネックのペースに合わせることで、全体のパフォーマンスを向上させることができます。そして、最終的にボトルネックそのものを強化・解消することで、さらに大きな成果を生み出せるのです。ただし、一つのボトルネックを解消しても、また新しいボトルネックが現れる可能性があるので、常に改善を続けることが重要です。
これは、お店の運営だけでなく、部活動の練習、勉強の計画、そして人間関係など、私たちの日常生活のあらゆる場面で役立つ考え方です。何かうまくいかないと感じたとき、「ボトルネックはどこだろう?」と考えてみてください。きっと、解決の糸口が見つかるはずです。
『ザ・ゴール』は、一見難しそうな経営の理論を、誰にでも分かりやすい物語形式で教えてくれる素晴らしい本です。もし興味があれば、ぜひ一度手に取って読んでみてください。きっと、あなたの視点を変えるきっかけになるはずです。