あなたの会社は、お客様にどうやって情報を届けていますか?
自社のウェブサイト、SNS、たまに出す広告、お客様からの口コミ…いろいろな方法があると思います。
実は、これらのお客様への情報発信の場所は、大きく3つの種類に分けられる、という考え方があります。それが「トリプルメディア」理論です。
このトリプルメディアという考え方は、WebやSNSが発達した現代において、お客様に効率よく、そして効果的に情報を届け、「選ばれる仕組み」を作るために、中小企業こそ知っておくべきマーケティングの基本中の基本なのです。
闇雲に「あれもこれも」と手を出すのではなく、この3つのメディアの役割を理解し、それぞれを上手に組み合わせることで、限られた予算と人手でも、お客様との繋がりを強くし、売上を伸ばすことが可能になります。
第1章:トリプルメディアとは?3つの種類を徹底解説
トリプルメディアは、以下の3つのメディアの頭文字を取って名付けられました。
- Owned Media(オウンドメディア):自社で所有・管理するメディア
- Paid Media(ペイドメディア):費用を払って利用するメディア
- Earned Media(アーンドメディア):お客様や第三者からの信頼を得て広がるメディア
それぞれについて、中小企業にとっての具体的な例を交えながら詳しく見ていきましょう。
1-1. Owned Media(オウンドメディア):あなたの会社の「城」
Owned Mediaとは、その名の通り、「自社で所有し、コントロールできるメディア」のことです。
あなたの会社のウェブサイトやブログ、SNSの公式アカウントなどがこれにあたります。
特徴
- 高い自由度:掲載する情報やデザイン、コンテンツの内容など、全てを自社の意向通りにコントロールできます。
- コスト効率:一度構築すれば、運用コストは比較的安価です(もちろん、コンテンツ制作の手間やサーバー代などはかかります)。
- 長期的な資産:積み重ねたコンテンツや情報が、会社の信頼性や専門性を高め、長期的な集客に繋がります。
- 顧客育成:自社の理念やこだわり、製品への想いを深く伝えることで、お客様との関係を深め、ファンになってもらいやすいです。
中小企業での活用例
- 企業ウェブサイト:会社の顔として、事業内容、製品・サービスの詳細、お客様の声、よくある質問、問い合わせ先などを網羅的に掲載します。
- 企業ブログ・オウンドメディア:お客様の悩み解決に役立つ情報(例:工務店なら「失敗しない家づくりのポイント」、パン屋さんなら「美味しいパンの保存方法」)や、製品の活用事例、開発秘話などを発信します。これがSEO対策にもなり、検索経由での新規顧客獲得に繋がります。
- SNS公式アカウント:Instagram、X(旧Twitter)、Facebook、TikTokなどで、製品の魅力や日々の会社の様子、スタッフの紹介などを定期的に発信します。お客様との直接的なコミュニケーションの場にもなります。
- メールマガジン:お客様に直接、新製品情報やキャンペーン、役立つ情報を届けます。
💡重要性:オウンドメディアは、あなたの会社の「拠点」であり「情報センター」です。お客様は、Web広告やSNSであなたの会社を知った後、必ずと言っていいほど、詳細な情報を得るために会社のウェブサイトを訪れます。ここが充実していなければ、せっかくの興味も冷めてしまうでしょう。まずは、オウンドメディアをしっかり作り込むことが重要です。
1-2. Paid Media(ペイドメディア):費用を払って「出会う」メディア
Paid Mediaとは、「費用を支払って利用する広告媒体」のことです。
テレビCMや新聞広告といった昔ながらの広告はもちろん、Web広告のほとんどがこれにあたります。
特徴
- 即効性:広告を出稿すれば、すぐに多くの人に見てもらうことができます。
- リーチの広さ:狙ったターゲット層に、短期間で広く情報を届けることが可能です。
- 効果測定:Web広告であれば、クリック数や表示回数、購入数など、詳細な効果を数値で測定しやすいです。
- ターゲットの絞り込み:Web広告は、年齢、性別、興味関心、地域など、細かくターゲットを絞って配信できるため、無駄が少ないです。
中小企業での活用例
- リスティング広告(検索連動型広告):GoogleやYahoo!で特定のキーワードを検索した時に、検索結果の上部に表示される広告です。「今まさにその情報を探している」お客様にピンポイントでアプローチできます。
- ディスプレイ広告:様々なウェブサイトやアプリの広告枠に表示されるバナー広告です。潜在顧客層に認知を広げたい場合に有効です。
- SNS広告:Instagram、Facebook、XなどのSNSプラットフォーム内で表示される広告です。詳細なターゲティングが可能で、ユーザーの興味関心に合わせて広告を表示できます。
- アフィリエイト広告:自社の商品を紹介してくれるブロガーやウェブサイトに成果報酬を支払う広告です。
💡重要性:ペイドメディアは、オウンドメディアの存在を知らない新規顧客との「出会いの場」として非常に有効です。特にWeb広告は、少ない予算から始められ、効果を見ながら改善できるため、中小企業でも積極的に活用すべきです。
1-3. Earned Media(アーンドメディア):信頼を「勝ち取る」メディア
Earned Mediaとは、「お客様や第三者からの信頼を得て広がるメディア」のことです。
口コミ、SNSでのシェア、ニュース記事、テレビでの紹介などがこれにあたります。 「Earned」は「獲得する」「勝ち取る」という意味で、企業が費用を払って宣伝するのではなく、お客様の満足やメディアの関心によって「自然に」情報が広がる点が特徴です。
特徴
- 高い信頼性:企業からの一方的な情報ではなく、第三者からの情報であるため、お客様からの信頼性が非常に高いです。
- 拡散性:特にSNSでのシェアや口コミは、一度火がつくと爆発的に情報が広がる可能性があります。
- コストパフォーマンス:直接的な広告費用はかかりません(ただし、信頼を得るための努力や、対応する人件費はかかります)。
- ブランド力向上:ポジティブな口コミや評価は、企業のブランドイメージや信頼性を大きく向上させます。
中小企業での活用例
- お客様の口コミ・レビュー:Googleビジネスプロフィールでの評価、ECサイトの商品レビュー、食べログなどのグルメサイトでの評価など。良い口コミが集まるように、お客様に良い体験を提供することが重要です。
- SNSでの言及・シェア:お客様があなたの会社の商品やサービスについてSNSで投稿し、それがシェアされること。「#(ハッシュタグ)〇〇(会社名・商品名)」などを活用し、お客様が投稿しやすい環境を整えるのも良いでしょう。
- メディア掲載:テレビ番組での紹介、新聞や雑誌の取材、Webメディアの記事化など。プレスリリースを送る、地域イベントに積極的に参加するなど、メディアの目に留まるような活動も有効です。
- インフルエンサーマーケティング:特定の分野で影響力を持つ個人(インフルエンサー)に商品を紹介してもらうことで、そのフォロワーに情報を届けます(ただし、これは厳密にはPaid Mediaの側面も持ちます)。
💡重要性:アーンドメディアは、最も信頼性が高く、最終的な購買行動に強い影響を与えます。良い商品・サービスを提供し、お客様に感動を与えることで、自然発生的に生まれる「最強のメディア」と言えます。
第2章:デジタル時代におけるトリプルメディアの「連携」が鍵
トリプルメディアは、それぞれが独立して存在するものではありません。 これら3つのメディアを上手に「連携」させることで、お客様との接点を最大化し、より効率的に「売れる仕組み」を作り上げることができます。 まるで、野球チームのピッチャー、キャッチャー、野手がそれぞれの役割を果たしながら連携することで、試合に勝つようなものです。
2-1. 各メディアの役割と連携のイメージ
- ペイドメディア(広告)で「見つける」:
- お客様がまだあなたの会社を知らない段階で、Web広告などで興味を引き、あなたの会社の存在を「気づかせ」ます。
- →オウンドメディア(ウェブサイト)へ誘導:広告をクリックしたお客様は、詳細な情報を求めてあなたのウェブサイトにアクセスします。
- オウンドメディア(ウェブサイト・ブログ・SNS)で「育てる」:
- ウェブサイトで商品やサービスの魅力を深く伝え、ブログで役立つ情報を提供し、SNSで親近感を醸成します。お客様はここであなたの会社への理解を深め、信頼感を高めます。
- →アーンドメディア(口コミ)へ繋がる:良い体験をしたお客様は、SNSでシェアしたり、口コミを投稿したりしてくれます。
- アーンドメディア(口コミ)で「広がる・後押しする」:
- お客様の口コミが、新しいお客様の「購入の後押し」となります。口コミを見て興味を持った新しいお客様が、あなたの会社のウェブサイトを訪れる、という好循環が生まれます。
- →再びオウンドメディアへ誘導:口コミを見て興味を持った人は、最終的にオウンドメディアで詳細を確認します。
このように、各メディアが役割分担し、お客様の購買プロセスに合わせて情報を提供することで、一つのメディアだけでは実現できない、強力な相乗効果を生み出すことができます。
2-2. 中小企業におけるトリプルメディア連携の具体例
事例1:地域密着型カフェの場合
- Owned Media:
- ウェブサイト:メニュー、こだわり(地元の食材使用)、店舗情報、スタッフ紹介、オンライン予約システム。
- Instagram:美味しそうなコーヒーやケーキの写真、季節限定メニュー、店内の雰囲気、バリスタの日常などを毎日投稿。「#〇〇カフェ」などのハッシュタグも活用。
- Paid Media:
- Google広告:「〇〇駅 カフェ」「〇〇区 美味しいコーヒー」などで検索する人に広告を配信。
- Instagram広告:カフェ好き、コーヒー好き、近くに住む人にターゲットを絞り、写真広告を配信。
- Earned Media:
- Googleビジネスプロフィール:お客様がGoogleマップで検索した時に、お店が表示され、お客様が良い口コミを投稿してくれる。
- InstagramでのUGC(ユーザー生成コンテンツ):お客様がカフェで撮った写真に「#〇〇カフェ」をつけて投稿し、それが友人やフォロワーにシェアされる。お店側もお客様の投稿を公式アカウントでリポスト(再投稿)。
- 地域情報サイトでの紹介:地域のグルメブロガーやフリーペーパーに紹介される。
連携のポイント: Instagram広告で新規顧客にカフェの存在を知らせ(Paid)、Instagramアカウントやウェブサイト(Owned)に誘導し、そこでカフェの魅力を深く伝え、来店を促します。来店したお客様が満足してInstagramやGoogleマップで口コミを投稿(Earned)し、それが新たな顧客の来店に繋がる好循環を目指します。
事例2:BtoB(企業向け)サービス提供企業の場合(例:ITコンサルティング)
- Owned Media:
- ウェブサイト:提供サービス、実績、導入事例、会社概要、問い合わせフォーム。
- ブログ(オウンドメディア):「中小企業がIT導入で失敗しないためのポイント」「クラウドサービス選びの注意点」など、お客様の課題解決に役立つ専門性の高い記事を定期的に更新。
- メールマガジン:ブログ記事の更新情報や、IT導入のトレンド、限定セミナーのお知らせなどを配信。
- Paid Media:
- リスティング広告:「中小企業 ITコンサル」「業務効率化 ITツール」などのキーワードで検索する企業担当者に広告を配信。
- LinkedIn広告(BtoB向けSNS):業種や役職、企業規模などでターゲットを絞り、広告を配信。
- Earned Media:
- お客様からの成功事例発表:導入企業が「〇〇社のおかげで生産性が2倍になりました」と自社のウェブサイトや講演で発表。
- 業界メディアでの紹介:専門誌やWebメディアで、ユニークな取り組みや成功事例が紹介される。
- SNSでのシェア:ブログ記事が「いいね」や「シェア」され、担当者のフォロワーに拡散される。
連携のポイント: リスティング広告やLinkedIn広告(Paid)で潜在顧客をブログ(Owned)に誘導し、そこで専門的な知識や解決事例を提供することで信頼を獲得します。お客様の課題解決に成功すれば、その導入事例がアーンドメディアとして広がり、新たな顧客の獲得に繋がります。
まとめ:トリプルメディアを「オーケストラ」のように
トリプルメディア理論は、それぞれのメディアがバラバラに機能するのではなく、まるでオーケストラの各楽器のように、それぞれの役割を理解し、調和して演奏することで、一つの美しいハーモニー(お客様へのメッセージ)を生み出す、という考え方です。
中小企業の場合、まずはオウンドメディア(自社のウェブサイトやブログ、SNSアカウント)をしっかり育て、お客様の「情報源」として機能させることが重要です。その上で、ペイドメディアで「出会い」を創出し、アーンドメディアで「信頼」を勝ち取る。
この3つのバランスを意識し、それぞれのメディアの特性を最大限に活かすことで、限られたリソースでも、より多くの、そしてより質の高いお客様と繋がり、あなたの会社の成長に繋がる強力なマーケティング活動を展開できるはずです。
今日から、あなたの会社の情報発信を「トリプルメディア」という視点で整理し、それぞれの連携を意識して、お客様に響く「仕組み」を構築していきましょう。